廣海家は、泉州の港町、貝塚で栄えた商家です。米穀の廻船問屋として天保六年(一八三五)に開業し、肥料商、株式投資、銀行経営などで資本を蓄え、これを活かして地域の産業の発展を支えました。
廣海家の広大な敷地には、間口約三四メートルの巨大な町屋、茶室、そして四棟の土蔵がならびます。この蔵に眠っていた大量の書画、茶器、調度などが、当館へ寄贈されました。
当館による調査は足かけ六年に及び、寄贈作品は1000件を超えました。このまれにみる大型寄贈を顕彰し、選りすぐりの優品をお披露目します。
展示作品の一部をご紹介しますと、明月記断簡、豊臣秀吉の消息、室町時代から江戸時代の扇面を貼り交ぜにした六曲一双屏風、廻船問屋が所蔵することの多い南蛮屏風、すでに名品ギャラリーに並んだこともある伊藤若冲筆の筍図や大岡春卜筆の四季草花図屏風、司馬江漢筆の富丘遠望之図、明清の染付や色絵による膨大な数の磁器(宴会用に数十人前で揃っています)、『光琳百図』の文様を下絵にした漆塗りに金蒔絵の数十人前の膳椀具、柴田是真作の銘々盆や中山胡民作の菓子盆、御所人形、婚礼調度や婚礼衣装、そして四季の茶道具などです。
現在ならば美術品として特別扱いされる品々も、廣海家の蔵では、家財道具として保管されてきました。どの品も、商家の暮らしを営むなかでおのずと蓄えられた道具ばかりです。世の多くの美術品は、それを作った人、商った人、使った人の「暮らし」から切り離されて伝わりますが、廣海家コレクションはそうした暮らしの物語を纏ったまま、しかもひとまとまりで寄贈されました。関西の商家で幕末から戦前にかけて営まれた美しく豊かな暮らしが、そこに垣間見えます。ほとんどの品が初公開です。どうぞお楽しみに!