江戸時代から徐々に将来された西洋画は、その科学的な写実技法により伝統的な日本画と大きく異なり、当時の人々に衝撃を与えました。高橋由一は西洋の石版画と邂逅し、その迫真の描写に感動して洋画家を志しました。彼にとって写実とは、自然や身近なものなど外界に対する清新な感動を伝える手立てとして機能しました。さらに大正期、岸田劉生は北方ルネサンスの巨匠たちの「クラシックの美」をめざし卓抜した描写力で写実を極めました。それは「内なる美」の表出として高く評価されています。劉生および彼の率いる草土社は同時代の青年画家たちに大きな影響をもたらしました。
由一と劉生はともに精神性を重視し、彼らの写実は外界のみならず内面を表出する手段となりました。その後、写実絵画は、時代の変遷とともに、美術史の表舞台から退きました。しかし、少なからぬ画家たちが、写実に身を投じ、独自の世界を築きました。その多くは異端視されましたが、対象に迫る迫真性と深い精神性は私たちを強くひきつけます。今また細密描写による写実が注目されています。本展は、移入され150年を経た写実がどのように変化しまた変化しなかったのか、日本独自の写実とは何かを作品により検証し、明治から現代までの絵画における写実のゆくえを追うものです。