八王子市夢美術館では、女児向けロングセラー玩具『こえだちゃん』の誕生40周年を記念し、初の展覧会「誕生40周年こえだちゃんの世界展」を開催します。
1977年、玩具メーカーの株式会社タカラトミー(当時:株式会社タカラ)から木の形をしたおうちにミニドールが付いた女児向けハウス玩具『こえだちゃんと木のおうち』(以下『こえだちゃん』)が誕生します。当時、同社はすでに着せ替え人形やごっこ遊びの代表玩具として『リカちゃん』(1967年発売)を大ヒットさせ、いわゆる「リカちゃんハウス」とも呼ばれたハウス玩具の分野で確固たる地位を築いていました。そして、同じハウス玩具の『こえだちゃん』でもそのノウハウは生かされます。ただ、『こえだちゃん』は『リカちゃん』の延長にある玩具としてつくられたわけではありませんでした。何故なら『こえだちゃん』には玩具としては珍しい「自然」というテーマがあったからです。70年代の日本は大気汚染などの生活環境の悪化により、人々の自然環境に対する関心が高まった時代で、「自然」というテーマはそうした社会背景を意識したものでした。今でこそ、自然環境は身近な問題ですが、それをいち早く玩具のテーマに据えるこの試みは当時の業界では画期的なことだったといえるでしょう。そして、今日においても、木の形をしたおうちで遊びながら自然を身近に感じ、大切にしてほしいとの企画者の思いが込められた玩具といえます。
もうひとつ忘れてはならないのは、『こえだちゃん』のファンシーなキャラクターと木のおうちに代表されるメルヘンの世界です。『こえだちゃん』が誕生する少し前の70年代半ばには株式会社サンリオから『ハローキティ』などの女児向けキャラクターグッズが登場、70年代後半はそのファンシーなキャラクターが大流行した時代でした。『こえだちゃん』もその系譜に繋がり、日本におけるファンシー文化の一角を担っていたといえます。さらに、『こえだちゃん』をメルヘンな玩具としている最大の特徴は木の形をしたおうちです。ファンシー感のあふれるその色や形、デザインもさることながら、葉っぱの屋根がワンタッチで開閉、幹の中にはエレベーターが付くなど玩具ならではの数々の楽しいしかけは『こえだちゃん』のメルヘンな世界をより広がりのあるものにしています。加えて、この時期には玩具と並行して児童向け雑誌『おともだち』(講談社刊)で初期『こえだちゃん』イラストレーターの桜井勇氏による連載が始まり、『こえだちゃん』の世界は玩具の外からもつくられていきます。このように、前述した『リカちゃん』が「憧れの生活」や「手が届きそうな夢」といったいわばリアルな世界と繋がる玩具であるのに対し、『こえだちゃん』はファンシーやメルヘンといった逆にリアルでないことが重視された玩具といえるでしょう。そして、その基本的な姿勢は現在でも継承されています。
本展では、そうした『こえだちゃん』の世界を初代(1977年)~8代目(2016年)の歴代玩具と桜井勇氏による『こえだちゃん』のイラスト原画を中心に紹介、最新の『こえだちゃん』を体験できるプレイスペースも展示室内に設けます。初代から8代目までのキャラクターやしかけの違いなどの変遷を比べながら、親子2代に愛されるまでに成長した『こえだちゃん』の世界をお楽しみください。