遠藤利克(1950-)は現代の日本を代表する彫刻家です。 1960年代から70年代にかけて芸術の原理をラディカルに問い直したミニマリズムや「もの派」の洗礼を受けながらも、それらの地平を越えることを課題として、遠藤は1980年代の現代美術シーンに関わっていきました。 美術における物語性の復権を掲げた遠藤の作品では、舟や桶、柩(ひつぎ)などのモチーフが古(いにしえ)の文化や神話的な物語を喚起する一方、水や火などのプリミティヴな要素が、人間の生命の根源にあるエロス(生の衝動)とタナトス(死の衝動)を呼び覚まします。作品の圧倒的な大きさは身体感覚にダイレクトに働きかけ、畏怖と恍惚が、そして生と死が一体となった、より高次元の感覚へと観る者を導いていきます。それは遠藤にとって、芸術を通じて「聖なるもの」に近づくことなのです。
ドクメンタやヴェネツィア・ビエンナーレにも出品、北欧と英国で巡回展を行うなど、遠藤利克は国際的にも極めて評価が高い彫刻家です。本展は、25年ぶりに関東の美術館で開催される大規模な個展となります。 2010年代に制作された作品を中心に展示構成する本展では、「聖性」と「考古学」をキーワードに遠藤利克の現在と本質に迫ります。