一八七二年、わが国初の西洋調剤薬局として創業した資生堂は、西洋料理店の先駆けとなった資生堂パーラー、また、画廊として最も永い歴史を刻む資生堂ギャラリーの経営など、多様な文化を独自の美意識で彩りながら世に送り出してきました。商品はもとより、パンフレットの一枚に至るまで、微に入り細を穿ち、美しいもの、品格のあるものを創造することに情熱をかたむけた志しは、変化を続ける時代の中にあって、一化粧品会社の立場から美しく質の高い生活を提唱し、日常生活全般を芸術化したいと願う強い意志に貫かれたものでした。
二〇一五年より始まった「工藝を我らに」は、美術品として扱われ、私たちの日常から遠ざかってしまった「工藝品」を生活の内に取り戻すための試みです。そして、資生堂が永い年月を通じ、人々の生活を豊かにするものと信じて続けてきた提案を展覧会の場を通じて新たに発信するものです。
第一期「工藝を我らに」の最終回となる本展では、五名のメンバーの新作を中心に、過去二回の同展出品作やアートハウスの収蔵品による新たな組み合わせを試みます。そして、私たちの日々を豊かにし、喜びをもたらし、大切に受け継がれていくことのできる工藝品を紹介しながら、さらには、生活の中での用い方や楽しみ方も併せて提案します。
アートハウス長期休館後の幕開けとなる本展を、工藝のもつ力、そして、この不安で浮薄な時代に、真心を込めて制作された美しく確かな品々を生活と共にすることで得られる幸福を分かち合い、広く共有していく場にしたいと思います。