武田浪さんといえば、人懐こい笑顔が思い浮かぶ。初めて会った人でもすぐに親しくなり、自作について明るく情熱的に語る。そして会話の後には爽やかな余韻が残るのだ。彼は若い時分に渡米し、1970年代の米国陶芸界で作家性を養った。77年に帰国すると滋賀に開窯し、琵琶湖の水底から採集したオリジナル陶土でダイナミックな作品を作り続けてきた。武田さんの情熱と人の思いやりは、常に時代や自分と対峙し、己が道を切り開いてきた人ならではのものだ。
そんな彼が昨年に行った個展を見て驚いた。船形のオブジェが出品され、「補陀落」と命名されていたのだ。その名を聞いて中世の捨身行「補陀落渡海」を連想した私だが、作品からはむしろ人間を肯定する強い意志が感じられた。そういえば「補陀落」は、遥か南にある観音菩薩の住処のことだ。そうか、武田さんはあくまでも理想を見つめていたのだ。世情が不透明な昨今だが、そんな時こそ武田さんの前向きな精神を見習いたい。
小吹隆文(美術ライター)