植田正治の作品には、<空と間>の独自性が存在する。―――古くから「空間」の概念について哲学や科学の視点でさまざまな定義づけがなされている。同様に、多くの画家や写真家たちも「空間」の次元の認識に多様な表現をもって試みている。
いずれにしても、写真は一定の事物の瞬間を形象し、定着することによって「空間」は時間と不可分であり、その存在は<見える>ものと、ものの間隔に位置するものといえる。植田は四十年代から五十年代の初期に発表した作品の、砂丘と空によって単純化した背景に点在する、人や物たちによる「間あい」のとりかたに独自のスタイルを確立する。そして、「間ぬけの正ちゃん」の親近の形容をもって、その存在を位置づけている。この独特な「空間」の抽象性と、瞬発的な構成力の巧みさは年代の写真のテーマとは関わりなく、晩年の作品にまで継承されている。今回の展覧会は植田のカメラのフレーム枠によって、<刻まれた空間>の、凝縮され、さらに拡がりをもとうとする<空と間>の作品群を、初期から晩年まで辿り、展観するものです。