古くは仏前に芳香を献ずるものであった香の文化は、仏教伝播とともわが国へ伝えられ、宗教上の用途とどまらず、貴族の生活を彩り、王朝文学の世界へも広がりをみせました。香をたき、聞きあてるための雅な香道具も発展し、日本が中国・宋~明との交易によって得た彫漆香合(ちょうしつこうごう)や古銅の香炉(こうろ)などは、鎌倉~室町時代の「唐物(からもの)」賞玩のなかで格式高く扱われ、しだいに茶道具へも取り込まれていきました。
香合とは香を入れる合子(ごうす)のこと、本来は香炉と組み合わせて用いられてきたものですが、“茶の湯”における炭点前(すみでまえ)の成立(16世紀末頃)によって香炉からはなれ、自由な素材・造形のものが登場します。漆芸香合、和物の陶磁香合、唐物の染付や色鮮やかな三彩の交趾(こうち)、赤絵(五彩)や青磁香合などがその例で、江戸初期より種類はじつに多様となりました。趣向豊かな香合は、茶席に飾られる場面も多く、今日でも人気の高い茶道具です。
本展では、静嘉堂所蔵の香合コレクションから優品を精選し、香炉の名品―重要文化財の野々村仁清(ののむらにんせい)作の香炉、中国陶磁の至宝である南宋官窯(なんそうかんよう)の青磁香炉、豪華な蒔絵(まきえ)の香道具もあわせ、総数約100件を公開するものです。
香を包み、運び、人の眼を楽しませ、“かおりを飾って”きた美しい器の数々を、緑濃い初夏の季節、静嘉堂でどうぞお楽しみ下さい。