どこか遠くを見つめているような眼差しの半身の木彫像。舟越桂の彫刻は、素朴で静謐な印象をたたえながら、その人物の内面世界までもかいま見せるような豊かな表現力を宿しています。現代の人物像でありながらも、古典的な雰囲気を持った彫刻は、親しさと同時に不思議な雰囲気を感じさせます。その独特の存在感は、数多くの文学作品の表紙を飾ることによって現代人の心をつかみ、日本において広く支持される彫刻家の一人となりました。
1951年に彫刻家、舟越保武の長男として生まれた舟越桂は、東京造形大学、東京芸術大学大学院彫刻科に学びました。在学の頃より新具象彫刻展などに発表の機会はありましたが、本格的に注目されたのは1980年代に入ってからであり、楠を使った木彫の半身像に大理石の眼をはめ込むといった舟越彫刻のスタイルもその頃に確立しました。その後の活躍はめざましく、1988年のヴェネツィア・ビエンナーレで日本代表作家の一人として選出されたのを皮切りに、1989年のサンパウロ・ビエンナーレ、そして1992年のドクメンタIX、シドニー・ビエンナーレなどに参加し、具象彫刻の新しい可能性を広げる作家として海外でも高い評価を獲得するにいたりました。
本展覧会は、そうした舟越桂の20年にわたる歩みを、初期の作品から未発表の最新作までを含む代表的な彫刻作品30点あまりを中心に構成する初めての本格的な回顧展です。初期から最新作まで全木彫作品の3分の1が展示されるとともに、発想の裏側を見せる自由な小型ドローイング、木彫に取りかかる前の大型ドローイングなどもあわせて紹介いたします。舟越桂のこれまでの表現の軌跡をあらためてふり返り、その多様性に触れるとともに、現代という時代において舟越作品が持つ力をあらためて深く理解していただく貴重な機会となるでしょう。