当館では茅ヶ崎にゆかりのある作家・作品を中心に活動しており、このたびの展覧会では「童画」をテーマに、茅ヶ崎と隣市・藤沢に住む5人の作家の作品計60数点を展示、紹介します。
「童画」は一般に子供の描いた絵(児童画)、または子供のための絵という意味で使われます。もとをたどれば童話や童謡のための挿絵や飾絵として登場したもので、“女性”や“子供”の文化がめざましい発展をとげた大正期には、『赤い鳥』や『金の星』などの児童雑誌に数多くの「子供のための絵」が発表されました。そしてそれに「童画」という言葉を始めて用いたのが、『コドモノクニ』等で活躍した武井武雄でした。
武井は、児童雑誌や絵本などに見られる挿絵としての童画、出版美術としての童画とともに、自立した美術作品としての童画、芸術としての童画の確立に力を注ぎました。
5人の出品作家たち-出版美術の仕事に携わるかたわら、現代童画会を主とした作品発表を続けるこうのこのみ(1926-)、同会に所属する、好きなものを自由に描いた結果が「童画風」だったと言う多田すみえ(1944-)、細かく描き込まれた人物たちに西洋の古い言い伝えや諺を散りばめる河野りえ(1961-)。児童出版美術家連盟に所属し、児童書の挿絵を数多く手がけてきた沢田あきこ(1966-)。そして日常の情景を非日常的な視点から眺める石井礼子(1974-)の作品は、一見童画世界とは無縁でありながら、どこか絵本を開いたときの感覚を思い起こさせます。
彼らは、育ってきた年代も作品の技法もその視線の先にあるものもそれぞれで異なります。けれど彼らの作品と向き合う時に感じる、例えば優しいとか暖かいとか柔らかい、あるいはわくわくするといった気持ち。そして鑑賞者に画面のなかの一場面からさまざまな空想の翼を広げさせる自由さ、その遊び心の豊かさは、彼らのうちに「子どものように純真な心」が等しく存在するということを示しているのかもしれません。
この展覧会では「子供」だけでなく「以前子供だった」人に多く来て頂きたいと思います。子供の頃と今とでは、世界は同じように見えているでしょうか。今ではあまり訪れなくなった懐かしい場所にもう一度立ってみて、そしてそれが決して過去の場所ではないということ、少し視点を変えれば日常のなかに変わらず見出せるということを、再確認するきっかけになれ・・・