新しい表現は、見る人に新しい世界を切り開いてくれます。 浜口陽三(1909~2000)は、1950年代に手さぐりで銅版画に取り組み、独自の技法を編み出しました。それは何ヶ月もかけて銅の板を彫る手間のかかる技法でしたが、今までにない、光と闇に満ちた作風を生み、世界的な評価を得ました。この夏は、浜口陽三にちなみ、現在、未踏の 表現に挑んでいる3人の作家を、浜口の銅版画20余点と共に紹介します。展覧会顧問として、生物学者で美術にも造詣の深い、福岡伸一先生に図録の評論文を書いていただく予定です。手のひらから時空を乗り越え、別次元へ昇華しようとする作品の数々をご覧下さい。
奥村綱雄(おくむらつなお)は「パフォーマンスとしての刺繍」を、 二十年以上続けています。あえて夜間警備の仕事に就き、勤務中の待機時間にひたすら針を動かして、小さな布に1000時間以上の作業時間をかたむけます。これは膨大な時間の結晶か、あるいは前衛演劇なのか。7200 時間分の不可思議な作品「夜警の刺繍」を 紹介します。
Nerhol(ネルホル)は、田中義久と飯田竜太によるアーティスト・ デュオです。レイヤー(層)を用いた洗練された手法で、時間や存在のゆらぎを提示します。昨年は伐採された街路樹を薄切りにして撮影し、その写真を重ね、年輪さながらに木の持つ雄大な時間と歴史を彫り出しました。
今回はこのシリーズを中心に、新作も加え、静かな思索空間を展開します。
水戸部七絵(みとべななえ)は、顔をテーマに描くスケールの大きな最近注目の若手作家です。油彩絵具を時には一日100本以上を使って豪快に塗り重ね、崩れることも臆さずに匿名の顔を描きあげます。絵画として描いていますが、作品は立体さながらに盛り上がり、大胆な色彩と質感で迫ってきます。