ヒノギャラリーでは2017年5月15日(月)より「多和圭三【ブ、ツ、シ、ツ、】」を開催いたします。
無垢の鉄塊を玄能でひたすら叩く。彫刻家多和圭三といえば、この仕事を真っ先に思い出される方がほとんどではないでしょうか。
多和と鉄との出会いは大学時代に遡ります。もともと木や石といった自然物へ手を加えることに抵抗のあった作家は、精錬され、いわゆる人工物である鉄ならば、素材として対等に向き合い、ともに何かを導き出せるのではないかと考えました。何を作っても手応えを感じられずにいた当時、自分の在るべき場所を探るように鉄を叩き始めます。それから約30年、叩く仕事は継続され、その後削る仕事へ移行しつつ、近年では製鉄所で出るスクラップ(廃材)を利用した創作に挑み、鉄との関係は40年以上にもなります。
今回発表する作品の一つに、展覧会タイトルにもなっている「ブ、ツ、シ、ツ、」があります。各1トンほどのスクラップの鉄塊を用いた2点一組のこの作品は、ほとんど手を加えていない状態といい、表面には赤錆が認められ、側面の縦に入った筋は製鉄所での加工の際についた溶断痕だといいます。手を入れた部分といえば、観者からはその全貌を確認することができない接地面(底面)を研磨し鏡面にしていること、そして、それを暗示するかのようにその境界となる側面に刻みを入れていることです。
多和の作品は、素材が「物」から「もの」へと変化した時に成立します。それは、鉄の持つ堅牢さや重量感、また柔らかさといった特質が、作家の手により顕在化した時と言い換えられるかもしれません。叩いた作品の場合、打面に現れた無数のハンマー痕や、圧力に負けわずかずつ端へとはみ出した鉄の移動がそれにあたり、今回の新作においては、磨かれた底面とその境目につけられた刻みであるといえます。それらは鉄の重みによる地に向けられた力を示唆し、ひいてはものがそこに在るという事実を一層揺るぎないものにしています。在るべき場所へと導かれた鉄は、作家そのものなのかもしれません。探りあてたその地で、確固たる存在を静かに提示し続けます。
本展ではもう一点、アプローチの異なるスクラップを用いた作品を発表いたします。鉄を通し、ものや人の在り方を模索する多和圭三の新作をどうぞご高覧くださいませ。