チャールズ・ディケンズの小説『オリヴァー・トゥイスト』の挿絵画家として有名なジョージ・クルックシャンクの国内最初の展覧会を開催します。
G・クルックシャンクは、1792年スコットランド出身の諷刺画家アイザック・クルックシャンクを父としてロンドンに生まれました。かれは正式の美術教育を受けませんでしたが、父のもとで三つ違いの兄ロバートと一緒に絵とエッチングの技法を学びました。幼少の頃から富くじのデザイン、お伽話の口絵、歌謡の飾り絵などを制作し、19歳の頃にはすでに一人立ちするほどの早熟ぶりでした。1811年の父の死後、「諷刺画というゆりかごの中で育った」かれはいち早く政治諷刺画の世界で活躍をはじめます。
1810年代、イギリス最大の諷刺画家ジェイムズ・ギルレイが精神に異常を来たして第一線を退き、ギルレイと双璧をなすトマス・ローランドソンも版画制作に衰えを見せはじめていたとき、かれはギルレイの後継者として一躍イギリスを代表する諷刺画家として注目されるようになります。「現代のホガース」とまでいわれたかれの諷刺画の数は2000枚ともそれ以上ともいわれますが、1820年代、諷刺画がひとつの時代を終えるとともに、クルックシャンクも諷刺画の世界から挿絵の世界への転身をはかります。小説の挿絵としてまず手がけたのは、スコットや18世紀の大作家スモレット、フィールティング、ゴールドスミス、スターンなどの作品でした。そこで小説の挿絵の技法を学び身につけたクルックシャンクは1830年代の後半になるとディケンズをはじめ、同時代作家の挿絵をつぎつぎと制作するようになります。19世紀の挿絵はクルックシャンクとともにはじまるといわれ、かれは諷刺版画の世界でそうであったように、挿絵の世界でも当代随一の画家として名声をほしいままにします。
クルックシャンクの画風は諷刺画の誇張歪曲されたグロテスクな世界から挿絵の滑稽でユーモラスな世界まで多様かつ多彩で、その才能はエッチングという版画技法を通してみごとに発揮されます。
本展は初期の諷刺版画、その後の『オリヴァー・トゥイスト』や『ジャックと豆の木』などの挿絵を合わせて350余点を紹介します。