闇夜に浮かぶ月が照らすは、斬るか斬られるかの大勝負。こわばる頬肉、振り乱るる髪、螺旋にねじれし体躯と四肢。まとう衣はばっさばっさとひるがえり、帯は弧を描いて方々に逆巻く。此の絵師描く組み討ちに、江戸の昔の型なぞ見えぬ。
—その絵師の名は、月岡芳年
幕末を越え、明治の新風を浴びながら、師・国芳譲りの豪快な歴史画、物語絵、武者絵を得意とした月岡芳年(1839-1892)。同じ場面を描いても、国芳は物語の筋を説き、芳年は登場人物の心の内に迫る。
本展は、動乱の時代に惑わされることなく、しかし、過ぎるほどに自身をみつめて精神病を患ったという、そんな自己の表現を真摯に追求した絵師、芳年を紹介する展覧会である。
質、量ともに世界屈指を誇る西井正氣の芳年コレクションから版木など約150点を選りすぐり、最後の浮世絵師として、また近代絵画の先駆者として芳年の画業を振り返る。
[残酷な描写が含まれる一部の作品は、展示スペースを区切って公開します。小さなお子さまの観覧については保護者、引率の大人の方がご判断ください。]