♥京都で活躍する刺繍作家・ティム里美の「刺繍は、糸を繡(ぬ)うことでパターンや図像を描きだすという、古典的な意味の刺繍ではない。それは古今東西のさまざまな素材やオブジェを糸で刺し、つなぎ合わせて生み出される、美しくも魔術的な結合物である。
♥「テクスト」がその語源において「編まれたもの」を意味し、「編輯」が「集めて編む」ことを意味するように、「糸を織る」「糸でつなぐ」という行為は、芸術や文化の立ち上がりに深く関わってきた。
♥また「絵」という漢字は色糸をあわせて刺繍の模様をつくることに由来するというのだから、ティム里美の刺繍は古代からの編輯の魔法をただしく現代に継承しているともいえるだろう。
♥時間や空間を超えるデジタルの情報網によって平坦になってゆく世界に対し、ティムの刺繍はその針の軌跡のなかに幾重にも折りたたまれた時空の想像力を立ち上げる。
室賀清徳(アイデア誌・編集長)