花森安治(1911-1978)は、終戦まもない1946年3月に、大橋鎭子を社長とする衣裳研究所を銀座に設立、新進の服飾評論家としてデビューしました。〈直線裁ち〉という誰もが簡単に作れる洋服を提案した『スタイルブック』は評判を呼びますが、かねてより計画していた生活家庭雑誌『美しい暮しの手帖』(のちの『暮しの手帖』)を1948年9月に創刊し、その後社名も暮しの手帖社へと変更します。〈衣・食・住〉を基本にすえ、もののない時代には〈工夫とアイデア〉による豊かな暮しを提案、電化製品が普及した高度成長期には〈日用品の商品テスト〉を実施、そして、食品添加物や公害問題が叫ばれた70年代には〈社会の矛盾を鋭くえぐる批評〉を誌面で展開し、ペンで権力に挑みました。30年間にわたり一切広告を入れず発行100万部に迫るまでに成長させた雑誌『暮しの手帖』を率いて、その表紙画から、カット、レイアウト、新聞広告、中吊り広告までと、取材や執筆はもとより、制作から宣伝まで、すべてを手がけたのが編集長・花森安治だったのです。
本展では、花森の作品そのものともいえる『暮しの手帖』が庶民に向けて発信したメッセージに、改めて耳を傾けます。戦時中の大政翼賛会での仕事にも着目しつつ、花森が全身全霊をかけて打ち込んだ出版活動を、ひとつの雑誌を超えた「運動」として捉え、多彩な仕事のなかからその思想を探っていきます。