「生きるとは、楽しむことである。それには自由でなければならい。」と、浅野竹二の版画の世界が我々に語りかけてきます。
京都生まれで京都に没した浅野竹二(あさのたけじ 1990-1999)は、はじめ日本画家を志し、やがて木版画家に転向、明朗で光にあふれた独自の全国名所絵で知られるところとなりました。しかし自分で描き、彫り、摺る創作木版画を好むようになり、浅野の作品世界は大きく変化します。版木の中に誰も見たことのないような、柔らかく、穏やかでぽかぽかとした春の日差しのような世界を作り出していきました。
昭和35年、アメリカの社会派の画家ベン・シャートンは、独自の石版画世界を作り出す画家でしたが、突如京都の浅野のアトリエを訪ね、浅野の作品を賞賛しました。この時から二人の交流が始まったのでした。この出会いが、浅野の独自の世界の創出にさらなる力を与えました。浅野の作品に、幼児性とも取れるほどの単純さ、大胆さ、純粋さ、そして愉快さをもたらしました。しかしこの浅野作品には、独特の人生哲学が含まれています。つまり、生きることを人間を中心に考えるのではなく、動物たちに人も含めて、命たちの営みとして、命の「ひとときの輝き」として愉快さを持って語っています。あっけらかんとして、飄々と、生きることをなんの屈託もなく、心からの喜びの笑い声として描いています。
本展では浅野が強く影響を受けたベン・シャートンの作品を加えて二人の作風の交流を辿りつつ、約220点によって、観たらつい微笑まずにはいられない、やさしく楽しい魅力に満ちた浅野竹二の木版世界を紹介します。関西では高い評価を受けてきたユマニスト木版画家・浅野竹二の世界を、関東圏でまとめて紹介する初の機会となります。ぜひご紹介くださいますようお願いいたします。