文明開化の明治時代、最新印刷技術として一世を風靡した石版画には、古今東西あらゆる主題が描かれました。大蔵省や陸軍の公用印刷物にはじまり、大型化した美しいポスターまで、神話や物語の世界、皇族、政治家、深窓の令嬢や人気を競った芸妓などの肖像画、古くからの名所や新しい都市の景観を描いた風景画、さらには多発する事件や災害そして戦争などの最新ニュースと、それはそれは膨大な石版画が生み出され、消費されました。
今回の展覧会は、これまであまり顧みられることのなかった日本近代美術史における石版画の重要性を検証するという目的を持ったものではありますが、展示される作品に描かれた当時の風俗を楽しんでいただくことも見どころのひとつです。
何よりもそこには、圧倒的なエネルギー、何でも石版画に描いてしまう明治人のパワーを感じていただけるはずです。西欧文化に直面して大きな衝撃を受け、それを貪欲に吸収しようとエネルギッシュに生きた先達の姿は、21世紀に向かって、混沌とした現代を生きる私たちに彼らの元気を与えてくれるに違いありません。レトロだけれどどこか新鮮な鹿鳴館時代のハイカラなファッションなど、当時最新のメディアであった石版画に描かれた明治をご覧ください。