1998年から2014年にかけて新宿・歌舞伎町の路上で撮影された『新宿迷子』(禪フォトギャラリー)は、夜の新宿・歌無伎町を居場所とする人びと、またそこで起こった諍いを捉えたスナップ・ショットの集大成。
モノクロームで写し撮られた人々からは裸のままの人間の姿が浮かび上がり、読者を街と人間のもつ強烈な「臭い」に引き込ませた。
*土門拳賞受賞のことば*
好きで続けた20年
何も分からず日本に来てから丸20年。初めてこの国で見た風景は、一見ソウルとあほり変わりない東京の“景色”だった。
しかし、その街の中にはカルチャーショックがつまっていた。牛丼屋で黙々と一人でご飯を食べ「ごちそうさま」と言って帰っていく人々。肩をぶつけ合いながら、狭い飲み屋で楽しそうに過ごす人たち。規則正しく礼儀正しい。堅苦しいかと思いきや、自由。
誰に何を言われる事も無く一人自由に何かをできるのではないか-。この国に住みたいと思った。
そして写真に出会った。映画でも良かったが、一人ではできないし、絵画の才能は皆無。妄想しながら、黙々とつくる写真は私にぴったりだった。学生の間は奨学金、賞金、バイト、学校に「住み着く」などで、学費や生活費を捻出できたが、その後は想像を超える貧乏生活が続いた。
自分がやっている事が果たして何の意味があるのか時々不安になった。表面的なインパクトのせいで、写真の内側をちゃんと見てくれていないのではないか。この作風と外国人だということで、心の隅に「自分は無理だろう」という気持ちもあった。
賞を頂けた事で、そのもやもやが全て吹き飛んだ。学生の頃からあこがれていた賞だった。きちんと評価してくれる国なんだと思った。これを機に日本で写真をやっている外国人や、自分の作風に確信が持てないまま写真を続けている方々の勇気に少しでもつながれば。
好きという気持ちだけで続けてきた20年。自分の写真の向上にいっそう精進してまいります。