自然の中で絵を描くことの素朴な喜びを、瑞々しい筆致で表現した洋画家・中村琢二(1897-1988)の作品を中心に特集いたします。琢二は、現在の福岡県宗像市で少年時代を過ごし、県立中学修猷館在学中に児島善三郎(1893-1962、独立美術協会)や兄の中村研一(1895-1967、日展)らとともに絵画同好会に所属して絵の魅力に触れることとなりました。東京帝国大学卒業後に、兄の勧めで画家を目指すこととなり、安井曾太郎に師事します。師の画風を受け継いで、写実を基本にしながらも柔和な雰囲気を保ち、兄のがっちりとした造形とは違う独自な画風を磨きました。風景や人物を対象に明快で歯切れの良い爽やかな画風は広く人々に愛好され、兄同様に戦後に日本芸術院会員にも選ばれました。
今回の特集展示では、当館所蔵品に加えて宗像市所蔵品で琢二の画業を回顧するとともに、琢二の画業を支える視点から見出される作家たちの作品も併せてご紹介します。琢二の世界から広がる絵の連なりも楽しんでいただければ幸いです。