タカ・イシイギャラリーは、5月27日(土)から6月24日(土)まで、ルイジ・ギッリの個展「Works from the 1970s」を開催いたします。ギッリは70年代初頭より、カラー写真を用いて形而上学的なイメージの考察を行い、49歳で夭逝するまでの20年弱の間に、数多くの優れた作品を残しました。タカ・イシイギャラリーで初めての個展となる本展では、類まれな空間感覚により獲得された色調が際立つギッリの作品世界において、重要な位置を占める70年代に撮影された作品を中心に展示いたします。
1950~60年代にかけて、経済成長と文化的転換の中で青年期を過ごし、芸術への造詣を深めたギッリは、当時最も盛んな芸術動向の一つであったコンセプチュアル・アートに通じ、単なる記録に留まらない写真イメージを求めたアーティストらとの共同作業から写真を始めました。職業的な写真スタジオへの所属や、アマチュアリスムに根を置く写真愛好とは異なる、ギッリの写真行為の端緒に関する実験的背景は、写真を通じて自身と外部世界との関係やそこに存在する複雑さ・不可解さに関心を寄せる姿勢を育み、既知と未知との狭間にいることを知る行為として、被写体に対する熟視という結果をもたらしました。
主題のみならず、その発想においても特異な多様性を誇るギッリの写真群は、「眼差し」を軸とする複雑に連関した一連の弁証法的探究であると言えます。ポスターや広告など公の場にあるイメージの分析から分類される「現実になるイメージ」と「イメージになる現実」、フレーミングによる世界の部分的抽出と消去が明らかにする現実の曖昧な境界、変化する風景の形態、あるいは人が見る際に生じる表象の投影によって、時には消え、また時にはたち現れる実体と想像といった、現実とイメージの関係性についての考察が、そこでは不断に、軽やかに、かつ密度をもって行なわれています。現実と見かけ(あるいは擬態)、実態と表象、在と不在、外界と内なる世界――こうした形而上の二元性をそれぞれ同じレベルで見つめ、その調和や多義性を探るギッリの写真は、写真が世界のあるがままの複製ではなく「見られた」世界の断片の集合であり、全ての写真が眼差しの証明であることを示しており、その中にあってどのようにイメージを通して考えるかという無限の問いを私たちに投げかけてきます。