当館の開館一五周年を記念し、川越に生まれ、装釘・舞台装置・挿絵など多分野で才能を発揮した小村雪岱(一八八七-一九四〇)の展覧会を開催いたします。
荒木寛畝塾や東京美術学校(現・東京藝術大学)で日本画の基礎を学んだ雪岱は、当初は主に本の装釘や舞台装置の世界で活躍していました。そんな雪岱を一躍有名にした決定的な仕事が、昭和八年(一九三三)に朝日新聞に連載された邦枝完二作「おせん」の挿絵でした。以降、挿絵画家としても人気を得た雪岱は、多忙を極めながらも数々の名作を生み出しました。
華奢な人物像、極細の線による無駄のない描写、余白を生かした画面構成、そして挿絵における白黒二階調の明快な配色は、雪岱画の特徴であり、大きな魅力です。本展では、多岐にわたる雪岱の画業からとりわけ挿絵の仕事と、その中で育まれた「雪岱調」とよばれる独自の絵画スタイルに注目します。雪岱作
品の持つ繊細なセンスや確かな描写力をお楽しみいただけましたら幸いです。