ヒノギャラリーでは2017年3月13日(月)より「小林良一 遊離する層」を開催いたします。
小林良一が弊廊で発表を始めた90年代、フォーマリズムが再評価され、小林もまたその流れに影響を受けた画家の一人でありました。当時の作品は、色彩を幾層にも塗り重ねることで生まれる力強さを湛えた色面や、内側から生起したシンボリックな形象で構成され、その印象は重厚で寡黙、フォームを重んじた実直な絵画でした。赤や緑、ベージュといった単一な色彩を主として用いていたことからも、作家の形式へのまなざしは大きかったように思います。現在も制作の主軸は決して大きく変えてはおらず、キャンバスに色を重ねる仕事を続けているのですが、近年の作品は、異なる色彩を迷いなく用い、以前の作品に見られるような重々しさが薄れ、動的な印象へと変化しています。
今回の展覧会タイトル「遊離する層」は、そうした変化の契機を示唆するものでもあります。絵具を重ねることで増していく厚みは、ときに画面全体の自由を奪うことがあり、そうした時、小林はあえて客観的な「遊離した」色層を侵入させるといいます。物理的には色を描き足しているのですが、作家はこれを「消す」や「壊す」行為と表現します。風穴を開け、新鮮な空気が送り込まれた画面は再び呼吸をはじめます。この大胆な行為こそが、これまでの小林作品に見られるある種の生真面目さを打ち壊し、より自由で勢いのあるものへと変化させる起爆剤になっているのでしょう。とはいえ行為そのものは、絵画を変えるものはやはり絵画でしかないという、結局は画家の実直さに起因するところが大きいように思います。
弊廊での個展は約2年ぶりとなります。のびやかなフォームへと転化した小林良一の絵画を是非ご高覧くださいませ。