アプリケ作家宮脇綾子(みやわき・あやこ/1905-1995)は戦争が終わった40歳の時、「何か自分でできることを」と思いついたのが身近にあった古裂を材料にしたアプリケでした。そして綾子は身の回りの生活を題材にアプリケを作り始めます。作品のモデルは庭の花、野菜、魚など身近なものを「あ」っと驚きの心で見つめ美しいと感じたものばかりです。
「こんな布がと思うものが素晴らしく、生きていくのがたまらなく楽しいのです。心して見れば道端の草花でも、台所に転がっている野菜、枯れた花、一匹のさんまでも美しい。その感動を私は布へ持って行っただけなのです。道端の花がモデルであり、自然に学び、物をよく見ること、それが創作を生むきっかけになるのです」と言っています。
その創作の支えとなったのが、作家(洋画家)として妻の作品を誰より理解していた夫・宮脇晴でした。綾子の作品は、一枚の静物画のように、自由な開放感にあふれ、立体感が有ります。そこには洋画家である夫の影響が大きく見てとれます。
アプリケ作品はただの布の貼り合わせではなく、ユーモアがあり、どれも温かさに満ち、今もデザイン性に優れ、躍動感があふれています。まさに絵具を古裂に置き換えた「布切れの芸術」なのです。
本展では、宮脇綾子の初期から晩年に至る代表作を中心に展示するほか、人柄がしのばれる遺愛品、創作風景なども交えて全容にせまります。また同時に当館所蔵の宮脇綾子作品を特別公開いたします。この機会に合わせてお楽しみください。