古来より自由に空を飛び交う鳥たちは、人の身近にいる動物であり、憧れの対象でもありました。人々は鳥の美しさを愛でて画題として描くだけでなく、大空を雄大に舞う鳥に自身の権力を重ね合わせたり、吉凶を占ったり、あるいは鳥の鳴き声に自らの思いを託したりするなど、鳥は人間の文化活動にとって深いかかわりを持ってきました。本展では、主に近世から近代にかけて制作された館蔵の絵画や工芸品の中から鳥にまつわる作品をご覧いただきます。
鳥と草花とを組み合わせた花鳥画は、自然の美しさを表現する画題として多くの作品が描かれてきました。江戸時代後期に中京画壇で活躍した山本梅逸(1783~1856)の「花鳥図屏風」(江戸時代)は、豊かな色彩と写実的な表現が調和する梅逸の技量が遺憾なく発揮されています。光り輝く金箔の上に瑞鳥の鳳凰を描いた重要美術品「桐鳳凰図屏風」(江戸時代)はまさに権力者の居室を飾るは相応しい屏風であり、鷹狩にも象徴されるように将軍の権威を絵であらわした八代将軍徳川吉宗筆「鷹之図」(江戸時代)は、三代岡山藩主の池田継政に延享4年(1747)に下賜され、池田家に家宝として大切に伝えられたものです。これらに加えて、壇ノ浦の合戦に際して平家恩顧の熊野の別当湛増が、源平いずれにつくかを鳥で占う場面が描かれた「平家物語絵巻 巻第11中壇の浦合戦」(江戸時代)や、母が娘を思う心を鶯の鳴き声に託した源氏物語第23帖「初音」の世界を蒔絵で表現した「初音蒔絵文台・硯箱」(江戸時代)、明治時代を代表する金工家の正阿弥勝義(1832~1908)が製作した中国の故事に由来する「諫鼓鳥香炉」(明治時代)などの工芸品もご覧いただきます。
さらに優れた作品でありながら、これまでご紹介する機会が少なかった重要美術品「太刀 無銘 伝包平」、「太刀 銘 恒次」、「刀 無銘 伝左文字」の三口の刀剣を特別展示いたします。
平成29年は酉年です。絵画や工芸品の中に表現された、鳥たちの美しく生き生きとした姿をご覧いただきながら、鳥に託した人々の願いや心も感じていただければ幸いです。