日本人とパステルの出会いは、「洋画」が広く知られるようになった明治期に遡ります。しかし、その魅力や可能性は、まだまだ多くの人に知られているとはいえないでしょう。
「顔料」を主体に練り、チョークのような棒状に固めたパステルは、いわば「色彩そのもの」。直接的で鮮やかな発色が魅力です。そして乾燥時間を必要としない「速写性」もパステルならではのものです。
そのパステルをとことん追求して使いこなした二人の日本人画家がいました。
武内鶴之助(1881-1948)と矢崎千代二(1872-1947)です。留学先のイギリスでパステルと出会った武内は、やがて微妙な色彩や陰影の美しさ、多彩な表現の可能性に魅せられ、帰国後は生涯を通じて探求を続けました。東京美術学校卒業後に渡ったアメリカでパステルを知った矢崎はパステルを専門とし、速写性を生かして中国やインド、ヨーロッパ、南米など世界各地の情景を活写しました。作風も生き方も異なる二人ですが、昭和期には、ともにパステルの普及のために尽力しています。
そして、二人の画家が次々にパステル作品を生み出していた頃、大正期の終わりには、京都である試みが進められていました。それまで、輸入品しかなかったパステルの国産化です。矢崎も深く関わったこの試みは、今日まで続くゴンドラパステルとして結実しました。
この展覧会は、二人の優れた画家、そしてパステルの国産化を中心に、日本人にも馴染み深いドガやルドンの作品などをあわせ、日本人が見出したパステルの魅力と可能性をご覧いただく展覧会です。