1920 年代、パリ。多くの日本人画家も暮らした芸術と文化の都に、一組の若く美しい日本人カップルが留学しました。板倉鼎(かなえ)・須美子夫妻です。既に画家としての素養を積んでいた夫・鼎、そして夫の手ほどきで新たに絵画に取り組んだ妻・須美子は、ともに魅力的な油彩作品を次々に描き、多くの日本人画家が出品し、今日も続く展覧会、サロン・ドートンヌほかに出品を重ねました。しかし、過酷な運命は、鼎、ふたりの間の子どもたち、そして須美子の命を次々に奪ってゆきました。
三十歳を迎えることさえ叶わず早世した二人の存在は、広く一般に知られることはなく、長い年月がその姿を隠してきました。しかし、近年ようやく、永遠に若いままの二人の、閃光にも似た画業は、研究が進み、あらためて知られるようになってきました。
この展覧会では、2015年に開催された二人の初めての回顧展「よみがえる画家 板倉鼎・須美子展」(松戸市教育委員会主催)をもとに、二人の残した仕事をふりかえります。また、二人と親交の深かった岡鹿之助や伊原宇三郎をはじめ、当館所蔵の、同時代にヨーロッパ留学・滞在中の画家たちが描いた作品をあわせて展観し、いまだ知られざる板倉夫妻の作品を中心に、当館が開館以来の収蔵テーマのひとつとしてきた戦前期の「画家の滞欧」の興味深い一側面をご覧いただきます。