豊かな教養をもって詩書画に親しみ、自らもそれを作る人々-文人(ぶんじん)は、東アジアにおいては文化の重要な担い手でもありました。彼らは友人との語らいや名勝への旅など、日々の感慨に応じて、墨を磨(す)って筆をとり、その想いを多彩な作品へと昇華させていきました。
文人文化の嚆矢(こうし)である中国では、早くから書斎の文房具などにも文人の雅趣が反映されました。特に硯・墨・筆・紙は「文房四宝(ぶんぼうしほう)」と呼ばれて重んじられ、文人の洗練された美意識に呼応して、すぐれた素材、意匠の作が多数生み出され、伝えられました。そして中国の成熟した文人文化は、日本と朝鮮にも波及していきます。唐時代の陶淵明(とうえんめい)(365-427)、北宋時代の蘇軾(そしょく)(1037-1101)などを文人の理想像として共有しながら、各々が中国の文人画様式を取り入れた絵画、書斎道具などを生み出し、東アジアの文人世界は、より多様な広がりをみせるのです
本展観では、中国、日本、朝鮮における文人の書画と書斎道具を展示します。文人達が愛した秋の季節に、東アジア文人の豊かな精神生活を感じていただければ幸いです。
(担当 都甲さやか)