新春の特別陳列として「古筆と手鑑」を開催します。「藻塩草」(国宝、京都国立博物館蔵)や「大手鑑」(重文、京都国立博物館蔵)などの手鑑、「古今和歌集(曼殊院本)」(国宝、曼殊院蔵)や「古今和歌集巻第十二残巻(本阿弥切)」(国宝、京都国立博物館蔵)をはじめとした古筆あるいは古筆切の優品を展示します。
私たちが古筆と聞いて想像するのは、その優雅な書体とバリエーションに富んだ料紙でしょう。唐紙、あるいは飛雲・羅文・下絵など、技術の粋を集めて作られた料紙と、当代の能筆たちが馳せた書は、さまざまな人の美意識が集約された、まさに総合芸術といっても過言ではありません。
さて、桃山時代以降、古筆が多くの人にとって鑑賞の対象となるに従い、それを切断して古筆切としたり、こうした切を台帳に貼り付けた手鑑というものが生まれました。これらを手にした人々は、やみくもに表具を施したり、台帳に貼り付けるのではなく、独自の美意識に基づいて好みの表具をし、また切を選択し体系的に貼り付けました。彼らの古筆に対する思いが、新たな文化の原動力となったのです。
一例をみてみると、「古今和歌集巻第十二残巻(本阿弥切)」は夾竹桃の文様を雲母で刷りだした美しい唐紙に、丸みを帯びた繊細な筆致で四十九首の和歌が書写されています。筆跡はその巧妙さから、小野道風筆という伝承がありますが、平安時代後期の作と考えられます。のち、寛永の三筆として知られる本阿弥光悦が愛蔵したという伝承にちなんで「本阿弥切」と言われるようになりました。光悦の作品をみると、料紙といい、個性豊かな書といい、根底にはこうした古筆に対する深い理解があったことがよくわかります。
「本阿弥切」に限らず、現在、目にすることのできる古筆や手鑑は、古の人、そしてそれを手にした人の多くの思いが込められていると言えるでしょう。どうぞ、視覚的な美しさとともに、内に込められた思いも実感しにご来館ください。