透明なガラス作品を作り続けている三嶋にとって、光こそが作品を彩る唯一無二の重要な要素であり、光に依拠するというよりは積極的に光を活かすこと、光のエッセンスによって作品を息づかせることが主眼になっているかのようです。
作品は周囲の光と空気を取り込むことに常に開かれようとしていますが、ある意味三嶋は、画家が絵の具を用いて作品を彩るように、光を特別な絵の具のように扱っているとも言えるかもしれません。
展覧会タイトルにある「星」という存在もまた、光の別称と言えるでしょう。光を発するものとして、あるいは光の受け皿として存在し続ける星こそ光の別名であり、作家が星に何かしらの意味を託し続ける理由ももっともなことと言えます。
日本、イタリアのみならず、ベルギー、オランダ、アメリカと活動の場が拡がり、今や現代ヴェネチアン・グラスの代表的なアーティストとしての位置を確立した三嶋ですが、もともとガラスを志してヴェニスに住み着いたわけではない彼女は、30歳を過ぎてからヴェネチアン・グラスに全てを賭けることで自身の芸術家としての人生を切り拓きました。そういう意味では三嶋りつ惠はヴェニスという土地が生んだ芸術家と呼ぶことができますし、粘性の高いヴェニスのガラスの特性が三嶋の生気に溢れる肯定的な作風にフィットしています。「直感の人」三嶋りつ惠のたぐいまれな人生に、三嶋芸術の始まりとその展開を重ね合わせることはまことに興味深いことです。