明治の幕開けにより、新しい西洋の文化が入り込んだ「江戸」は、徐々にその姿を「東京」に変えていきました。人びとは文明開化の波を新鮮に感じる一方で、旧幕府時代を批判的に捉えた新政府の態度や社会の変化には戸惑いも感じていたようです。明治22年(1889)には旧幕臣による「江戸開府三百年祭」が開催され、江戸への郷愁も高まっていました。
こうした人びとの心情に寄り添うように、明治22年前後の浮世絵には「江戸」を題材にした例が多くみられます。自身も旧幕府軍として戦った経験のある楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)は、代表作『千代田之大奥(ちよだのおおおく)』などで、かつては描くことのできなかった大奥や江戸城の様子を描いています。明治を代表する浮世絵師、月岡芳年(つきおかよしとし)は、『風俗三十二相』シリーズにおいて、江戸美人の姿に往時への追憶を込めました。
1868年の明治維新から、もうすぐ150年が経とうとしています。本展では「明治時代に描かれた江戸」という視点から、江戸時代について、また時代の変わり目に生きた明治の人びとについて思いを巡らします。