勝部如春斎(かつべ・じょしゅんさい)は一七二一(享保六)年、西宮の裕福な醸造家の家に生まれました。大坂で狩野派を学ぶ一方、兄に酒株を譲られて家業の収入もあったようですが、前半生の詳しい経歴は分かっていません。
三十代後半から数年の間に、妻や子どもを相次いで失うという不幸に見舞われた如春斎はその後、亡妻の追善のために東福寺にある明兆(みんちょう)作の「三十三観音図」を模写するなど、精力的に画業に専念した様子が伺えます。
そして一七六四(明和元)年十二月、時の左大臣九条尚実(くじょうひさざね)に「如春斎」の号を賜わり、以降如春斎は作品に「台賜(だいし)如春斎」の落款を入れるようになりました。現在知られている如春斎の作品の殆どは、如春斎と号するようになった後に、描かれたものです。
残された作品にみる如春斎の画風は、ときに豪華であっても繊細で可憐、上質な雰囲気の滲み出たものです。目を引くような派手な個性はありませんが、狩野派の手法に則った手堅い技量が発揮されており、当時は大変人気が高かったようです。
このたびの展覧会では、これまで”山本”如春斎として知られてきた郷土の画人の、主要な作品五十点余りを一堂に会し、その画業を美術館で初めて紹介いたします。また弟子といわれている森狙仙(もりそせん)をはじめ、大岡春卜(おおおかしゅんぼく)、吉村周山(よしむらしゅうざん)など摂津を中心に活躍した同時代の画人の作品も併せて展観いたします。如春斎の生きた十八世紀の、豊かな文化的雰囲気を味わっていただけることでしょう。