歌川広重といえば浮世絵風景画の第一人者として葛飾北斎と並び大変有名ですが、広重は当初から風景画ばかりを手掛けたわけではありません。画業前半には役者絵や美人画なども手掛け、てらいのない素朴な人物をよく描きました。そして、若かりし頃の努力と成果はその後彼が得意とした風景画にも表れています。
広重の風景画、特に東海道や中山道を描いた街道物にはしばしば味のある人物が登場します。彼らは作品における主役ではないかもしれません。しかし、彼らの見せる些細なしぐさや表情は旅の風景に彩りを添え、私たちを自然と作品に引き込みます。そして、魅力たっぷりの旅人たちを描き出すのは、人々を愛情深く観察する広重の眼差しなのです。
本展では広重の描く旅人たちを愛情を込めて「おじさん」と呼び、彼らの魅力を存分に味わいたいと思います。