広重自身も住んだ江戸の町。身近な景色を斬新な構図で切り取った、広重晩年の代表作である《名所江戸百景》をご覧いただきます。この作品は目録を含め全120枚で構成される揃物で、題名通り、江戸市中の名所が余すところなく収められています。大判用紙を縦に使った《名所江戸百景》には遠近感を強調したり俯瞰図を用いたりと、迫力ある画面にはさまざまな工夫が見られます。江戸っ子たちにはおなじみの景色を取り上げながら、広重はまったく新しい発想でそれらを絵に中に収めたのです。鮮やかな色彩も見どころの一つで、数々の華やかな図はデザイン性にも優れ、現代でも色あせることがありません。
この揃物は、1854年に発生した安政の大地震の翌年に刊行が始まっており、大きな被害を受けた江戸の町の復興への祈りが込められているとも考えられます。都市風景の中には、花や鳥といった自然の景物も描き出されます。描かれた美しい風景は大胆でありながらも、どこか穏やかさを感じさせるようでもあり、古き良き日本の原風景を思い起こさせます。それはこの絵が、江戸の人々の優しい思いを宿しているからなのかもしれません。
このたび《名所江戸百景》全図を2期に分けて展示いたします。広重の絵作りの妙をお楽しみください。