戦後5年を経た1950(昭和25)年から1960年に至るまでの10年間は、社会や政治における急激な変化の時代であると同時に、美術の新しい局面が次々に拓かれた重要な時代でもありました。銅版画〈初年兵哀歌〉シリーズで知られる浜田知明や、不条理な社会事件を絵画で追及した山下菊二、ジャンルを超えて自由な表現を求めた「実験工房」、関西を拠点に先鋭的な活動を行った「具体美術協会」の活動もこの時期に始まりました。神奈川県立近代美術館が日本初の公立の近代美術館として開館したのも1951年でした。
本展では、多様化していく表現形式や、復興とともに変化を遂げる社会と美術の関わりを、半具象やアンフォルメルなど、この時期に特徴的な絵画表現の展開とともに再検証します。絵画、彫刻、版画に加え、具体美術協会の記録映像(1957, 58年/大阪新美術館建設準備室蔵)、実験工房「オートスライド」(1953年/個人蔵)、映画『銀輪』(1956年/東京国立近代美術館フィルムセンター蔵)など貴重な映像を含む約100点を展示し、戦後の傷のまだいえぬ中にあって、新たな芸術を生み出そうとした1950年代の美術家たちの動向を、現代に生きる我々の眼で見つめ直します。