私たちの身の回りにあるものを描く静物画。美術の授業などで描いた経験がある方も多いのではないでしょうか。外出やモデル依頼の必要がなく気軽に描き始めることができることから、絵画の中でも最も身近なジャンルと言えるかもしれません。
静物画の起源は古く、古代ギリシャ・ローマ時代まで遡ります。ヴェスビオス火山の噴火によって街が埋没したポンペイの遺跡には、果物をのせた鉢が描かれた壁画が残っています。中世には宗教的な画題の中に象徴や寓意を表す花や道具が登場し、17世紀になるとオランダで写実的な表現の静物画が多数描かれるようになりました。この頃、静物画は肖像画、風景画などと共に絵画のいちジャンルとしての地位を確立します。20世紀には、キュビスムやフォービスムといった新しい美術運動の中で、対象をじっくり観察することができる静物画は格好の題材となり、セザンヌやピカソなど、多くの巨匠がこの画題に取り組みました。
本展では、服部一郎コレクションの中から、20世紀に制作された静物画を中心にご紹介いたします。画家がアトリエの中で身近な対象と向き合い、じっくりと観察し、その姿を描いた静物画。似たモチーフを描いているため、それぞれの表現の違いがより際立ちます。個性豊かな作品の数々を、是非ご覧ください。