有元利夫は1946年(昭和21)両親の疎開先であった岡山県に生まれ、その翌年家族と共に東京に戻り生涯を台東区谷中で暮らしました。家業が文房具店であったことから常に画材に囲まれて育った有元は小学校入学と共に、ゴッホに惹かれ油彩画を習います。高校では若き日の版画家中林忠良が美術の担当であったことから東京藝術大学進学を志し、中林にデッサンを習いながら受験を重ね、22歳で念願の東京藝術大学入学を果たしました。ヨーロッパのフレスコ画と日本の古画との間に似通う点を見出した有元は、在学中から伝統的な日本の画材である岩絵具や箔で独自の絵画世界を構築していきました。卒業制作「私にとってのピエロ・デラ・フランチェスカ」は大学の買い上げとなり、1975年(昭和50)初めての個展を開き、1978年(昭和53)には若手作家の登竜門である第21回安井賞の特別賞を受賞して有元は一躍画壇の寵児となりました。そして1981年(昭和56)には第24回安井賞そのものを受賞するに至ります。高まる周囲の期待を一身に受けていたその矢先、有元は肝臓癌に侵され発症の翌年、1985年(昭和60)に38歳という若さでこの世を去りました。初個展から早逝まで画壇を席捲したのはわずか10年間でしたが、東洋と西洋の古画を融合させたその画業は現在でも高く評価されています。
今回は有元利夫の遺作120点余りを展示し、その10年間の画業をたどります。