草野心平はいろいろな仕事を手がけました。それは「詩人」としての副業ではなく、生活者としての必要性からでした。
心平は郷里上小川の橋本千代吉をにわか板前に仕立て、昭和27年3月から昭和31年12月まで居酒屋「火の車」を営業します。
最初に文京区本郷田町28(都電初音町そば)で、次に新宿区角筈1-1(武蔵野館裏和田組マーケット)で展開したこの空間には、文学仲間との怒号の議論、客との県下、連日の宿酔い、そして執筆と、独特のエネルギーが渦巻いていました。戦後蘇生期の心平を語る時に欠かせない場所です。本企画展では、この「火の車」時代の心平と、心平がメニューにつけた独特の名前、常連客たちのエピソードを紹介します。