岡村吉右衛門(1916―2002)は民芸運動の推進者である柳宗悦の薫陶を受けたことから工芸の道に入り、独自の活動と作品を展開した日本を代表する染色作家であり、染色技法研究の第一人者です。
岡村の工芸への探究は、幅広く太古から現代に至る人類文化史への眼差しを基に、自然との交信と循環の営みが紙という素材と色や形を巧みに用いて象(かたど)られることで、独自の染色技法である型染め版画という表現世界に昇華されました。それらはあたかも世界と未来への想いや願いという「祈り」を目に見える「徴(しる)し」として示した、染色家岡村吉右衛門の真骨頂であるといえます。
本展では、吉祥や季節に因んだ動植物の絵を漢字に見立てた「文字絵」シリーズ(1970-90年代)、自然への畏怖と共生をアイヌ文化から見出した「蝦夷絵」シリーズの晩年の遺作となった未公開作品群(1980-90年代)、晩年の大作「十二星座」シリーズ(1996年)など様々なテーマと技法に富んだ型染め版画約230点を展示します。また工芸的な私家本へと結実した膨大なフィールドワークと著作・制作のための資料類も含めて、岡村吉右衛門の生誕100年を記念する展覧会として、その業績をたどります。