工芸の先へ―"型染め"未来への挑戦 清水康友
無から有を生ぜしめる創造という行為に際し、これを完遂させるための技法と素材は重要である。殊に膨大な時の堆積の中で進化発展を遂げ、継承されてきた"技"に至っては尚さらである。
このたび京都精華大学の鳥羽美花教授のもとで、日本の風土に根差した染色技法である「型染め」を学んだ18人の作家が展覧会を開催する。型染めは我が国の自然から生まれた素材により、千年以上の永きに亘り制作され続けた伝統ある染色技法である。歴史の中で錬磨されてきた技法には、多くの場合規範や決まり事、素材に関する制約等が存在する。伝統という言説にも順守すべき、また変えてはならない事・物の意が含まれている。人の手や力を極力排除するハイテク化された現代社会にあって、敢えててわざ手技を追究しテクノロジーとの融合を探求する今日の美術家は、この伝統とどの様に向き合うのか。技法や素材等のハードに極端な変革は求められない。とすれば伝統技法を用いる作り手側の意識や思考といったソフト面を柔軟に変化させ、伝統と寄り添うべきである。
今回"祈り"を展覧会のテーマとして揚げた。祈りは人の内より自ずから生じるもので、個々人の祈りが存在している。美術家の場合は、ストイックであり同時にアグレッシブでもある創作行為そのものが祈りとも言え、各作家の祈りの宿った作品が展覧されるであろう。
本展で注目したいのは、共有する型染めをベースに、若い美術家の造形感と美意識で、どの様な表現が可能かという点である。外観の新奇さもさる事ながら、各々の型染めの捉え方に興味が及ぶ。
伝統を尊重しつつもよりラディカルでスリリングな制作は、いずれ現代の美術として開花するに相違ない。工芸という概念を超越する挑戦が始まったのである。(しみず・やすとも 美術評論家)