渋谷区立松濤美術館はこれまで、「アメリカの水彩画 ホイッスラーからワイエスまで」、「大正・昭和の水彩画 蒼原会の画家を中心に」など水彩画の展覧会を開いてまいりました。現代の水彩画を試みるアーティストには従来の水彩画の枠と常識に捉われない斬新な作品を創作する人たちがいます。今回はそれらの新しい傾向の水彩表現を紹介します。
にじみや余白の美を紙上に追求した従来の透明水彩の伝統に対して、戦後、油絵具と水彩絵具の両特質を兼ね備えた速乾性でかつ堅牢なアクリル樹脂系の水溶性絵具が開発され、現在、日本をはじめ世界の作家に愛用されるようになりました。透明水彩と不透明水彩(グワッシュ)そしてアクリル絵具などの使用により、現代の水彩画はかつてない程の多様な表現と技法を獲得するようになったのです。
紙や綿布に描かれた水彩画には、にじみ、ぼかし、たらしこみ、かすれ、散らし、ストローク、渇筆、色彩の重ね、ぬぐい、削り、透明感、不透明感、塗り残し、余白など水彩ならではの無限の味わいと表現と技法が多々見られます。優れた水彩画は油彩画のタブロー表現と同格の芸術作品と見なすべきものであり、高度のテクニックが要求されます。近年、日本においても水彩画を愛好する人々が増えていますが、それにもかかわらず、水彩画の展覧会が非常に少ないことが指摘されています。
本展は水彩画家、油彩画家、立体造形作家、版画家など幅広いジャンルのアーティストの中で、透明水彩、グワッシュ、アクリル絵具を使用した水彩表現を試みる約18名の作家による約90点の水彩画を選び、現代水彩画の造形的実験とその多彩な美の魅力を紹介します。