1948年6月、松本竣介は病に倒れ36歳という若さで世を去りました。東京に生まれ盛岡で少年時代を過ごした竣介は、戦前から活動を開始し、戦中には麻生三郎、靉光、寺田政明らと「新人画会」を結成。困難な時代においても自由な個の表現者であろうとする姿勢を貫きました。その彼の死から10年後の1958年、神奈川県立近代美術館では「松本竣介・島崎雞二展」を開催しました。それが公立の美術館で竣介作品がまとめて展示された初めての展覧会でした。その後、当館はご遺族などからの寄贈を受け、1968年に旧鎌倉館の一室を「松本竣介記念室」として公開しました。まもなく閉室となりましたが、1984年に鎌倉別館が開館してからしばらくの間、展示室の一部を「松本竣介コーナー」として展示替えしながら作品を紹介。さらに、2012年には生誕100年を記念し葉山館で大規模な回顧展を開催するなど、松本竣介は常に当館の活動のひとつの軸となってきました。
時代の不安な様相を独自の静謐さで包んだ都会風景や温かな視線が注がれた人物像、複雑に交錯するモンタージュと呼ばれる技法を応用した情景など、時代を超えて人々を魅了し続ける松本竣介の絵は、今や当館のコレクションにとって最も重要な位置を占めるばかりでなく、昭和前期の近代洋画史に欠くことのできないものとなっています。
今回の展覧会では、 松本竣介の油彩、素描とあわせて彼と関わりの深い作家の作品を展示するとともに、竣介が残したスケッチ帖などを手掛かりにして、その創造の原点をさぐります。