浮世絵風景版画の精髄-幕末三大絵師 広重・北斎・国芳、夢の競演
歌川広重の名所シリーズは、葛飾北斎のそれとともに、浮世絵版画の代名詞と言えましょう。しかし、それらをまとめて見る機会はきわめて少なく、まして摺り立ての美品は、夢のまた夢でした。
この展覧会は、そんなまぼろしと言っていい、浮世絵風景版画の名品が一堂に会する展覧会です。これは、日本化薬株式会社会長であった原安三郎氏(1884ー1982)がひそかに収集し、2005年にはじめてその存在が知られるようになったコレクションで、広重、北斎、国芳という幕末三大絵師の浮世絵風景版画としては国内屈指のものです。
なかでも歌川広重(1797-1858)の晩年の傑作、<六十余州名所図会><名所江戸百景>の美麗な初摺り揃いは、今回が国内初公開の逸品です。
広重の風景版画としては東海道五十三次連作が知られますが、後期印象派の巨匠・ゴッホが模写した浮世絵版画が、広重の名所江戸百景であったことも、近年明らかになりました。19世紀、西洋の遠近法を取り入れつつ、独自の風景版画を生み出した広重をはじめとする日本の浮世絵師と、思いもつかない風景表現に驚嘆したヨーロッパの印象派の画家。東西画家の時空をこえた意識の交錯も、この展覧会のもう一つのかくれた見所と言えるかもしれません。
摺り立てのような、藍、朱、群青などのあざやか色彩をもつ浮世絵版画。幕末浮世絵の三大巨匠、広重、北斎、国芳の夢のような競演を、250余点の名品により、心ゆくまで味わってみてはいかがでしょうか。