杉村英一(1926-2004)は、一九五〇年代から個展を中心に二科展やモダンアート展に作品発表の場を求めますが、六〇年代に入ると盛岡の前衛美術グループである「集団N39」の一員として活躍し、柵山龍司、大宮政郎、村上善男らと共に、若手前衛美術家を代表するひとりとして岩手の美術シーンをリードしていきます。
六〇年代は、トタン板にハンダで凹凸を付けた平面作品やステンレスの曲面を鏡のように使い、内側に描かれた絵柄が表に浮き出るというような表現を数多く試み、中央からも評価されるようになります。七〇~八〇年代にかけては、独自の技法を駆使し線の集積で闇を表現した、繊細で張り詰めたドローイング群が美術関係者から高く評価され、一九八五(昭和六〇)年には岩手県優秀美術選奨に選ばれています。その後は、黒一色で塗られた立体の「箱シリーズ」と続き、九〇年代に入ると濃青色の平面作品「風地」シリーズと続きます。静寂のなかに神秘性を湛えた緑がかったダークブルーの空間世界は、観る者に多様なイメージを喚起し、未知の世界へいざないます。平面から立体へ、立体から平面へと、表現者として多彩な表情を見せる杉村の造形性は、いずれのシリーズにおいても多くの方々を魅了してきました。
没後、これまで省みられることの少なかった杉村英一の大規模な遺作展となる本展では、最初期から、晩年の「風地」シリーズまで、およそ一五〇点で半世紀にわたる杉村の造形性を検証します。杉村英一という岩手に根差した優れたアーティストが、本展を通じて多くの方々に驚きと感動をもたらすことを願っています。