小野竹喬(1889-1979)は自然に接したとき、すぐにスケッチに取り掛かることはなく、対象の息づかいを感じ取るまでじっくり見つめます。ここから生まれる素描は、簡潔明快な表現であり、自然の微妙な様相を鮮やかに捉えたものです。竹喬芸術の魅力は完成作よりも却って素描の中にあると言われます。
竹喬の言葉に、「私は写生をする時、無心に近くなつているようである。ただ美しい対象に参つてしまつて、それに従つている。此の事を自分で、後から振り返つて見ると、苦しい事は苦しいが、救いの時間のような気がする。写生は楽しいのである。私は自然を見た時、線よりも色に心を引かれるので、素描立ちのものが割合に少なく、つい色を塗つてしまう」(昭和32年7月)とあります。
竹喬の素描の中には、広い自然を捉えたものもありますが、多くは身辺のささやかな自然です。そして、戦後の60代以降の素描には、四季の樹木を通して見あげた空が多く描かれています。
このたびの展覧会では、竹喬美術館が所蔵する素描の中から、「見あげた空の向こうに」という着眼による作例を70点選び、自然と向き合う竹喬の素直で生新な感性をお伝えしたいと思います。
また、素描に加えて、本展覧会に関連する本画や下絵などもあわせて展示します。