映画は、周知の通り、監督、脚本家、撮影監督、美術監督、音楽家、俳優など様々な人間の才能が結集して作られる集団芸術です。中でも、最も複合的な仕事をしているのが、セット、小道具、衣装などを統括する美術監督。美術監督の主要な仕事は、セット制作のための平面計画とラフ・スケッチを描いて、そこから設計図をひくこと。彼の指示のもとで大道具によるセットの建て込み、装飾担当者によるセットの飾り付け、さらに衣装の選定などが行われます。美術監督は、フィルムに刻印される映画の空間を直接的に造形する重要な役割を担っています。美術監督を通して、映画の物語は、はじめてそのイメージが具体化されるのです。
木村威夫(1918-)は、現役の日本の映画美術監督の中で、最も評価の高い美術監督の一人です。40-50年代の日本映画最盛期から活躍する大ヴェテランでありながら、若い世代の映画関係者からも圧倒的な支持を集めており、そうした若手作家の作品にも積極的に協力することで知られています。また、シナリオの執筆にも参加するなど、従来の美術監督の範疇を越える、先進的活動を多岐に亘り展開してきた才人です。
今回の展覧会では、木村威夫氏本人の協力を仰ぎ、セットの部分再現や、イメージ画、ラフ・スケッチ、設計図面など多くの貴重な資料を展示します。木村威夫の〈美術思考〉の軌跡を辿りながら、映画美術とは、美術監督の仕事とは何かを多面的に紹介します。
また、展覧会に併せ、木村威夫氏が映画美術を担当した作品の特集上映を行います。200本を越える作品歴の中から、34本を選び、木村威夫氏の業績を紹介します。