[ 夢想・幻想の絵の魅力 ]
北久美子の描く幻想的な絵画は、この世のものとは思えない美しすぎる世界を演出している、と認識しながら、もしかしたらどこかに本当に在るのかもしれない、そう思わせる不思議な風景である。そういった風景作品で1989年文化庁に作品が買い上げとなり、翌90年には安井賞を受賞した。以来、彼女の夢想絵画は、そのユニークな発想と表現力と抜群の描写力において注目され、評価されてきた。
ボッティチェッリの「春=プリマヴェーラ」のように喜びの歌が聞こえる生々とした花園を作りたい、と作者自身は思っている。「春」の画面には数百種の植物や花々が描かれているようだが、北久美子の夢想の花園もかなりの種類の草花で十分に楽しませてくれる。澄んだ空気、紺碧の空、遠い水平線、純白の鳩、目に眩しい孔雀、群れ飛ぶ蝶などなど、繊細で艶やかなそうした仮想世界において、夢想の草花は主役のように輝いている。
また70年代の初期作品「日本生物園」や「日本烏類絵図」等の頃から既にその夢想性を帯ぴた次元の違った風景が作られていたことを理解できる。「夢想植物園」の直前に描かれた”杭にカラス”の諸作もまた、身の周りのちょっとした日常にヒントを得て夢想したメッセージ性を感じさせる異色作となっている。
この度の北久美子展は、そうした作品群によって、画家自身の夢想・幻想の”私の世界”に一貫して流れるものは何かを思い描きながらゆったりと楽しむことのできる内容となっている。