想像力を呼びさます中西夏之の画業
中西夏之という美術家が歩んで来た道程を振り返ってみると、氏が20世紀後半以降の日本現代美術史の髄質形成にいかに重要な役割を果して来たかをあらためて深く感じさせてくれる。
今回展示されるのは、まず1980年前後に制作された「弓形」シリーズの貴重な2点だ。当時、この作家の意識の中には円弧が生命にも共通する弾力性と時間性を内在させていることへの関心を深めた時期であり、連作という行為は〈展開〉ではなく、〈深化〉をめざすものとの言葉が公開された制作ノートにあったと記憶する。そのような思考の見えざる矢を画布に向けて深く射込む弾機として、画面に弓そのものが固着されていると見ていいのだろう。
同時に展示されるのは1992~93年作の紫や緑の色彩が眼を染め上げる作品。脳室や脳幹を満たすようなさわやかな緑、神経線維を伸ばして様々な機能のネットワークづくりを進めるような蔓状の紫―そんな想像は作家の意図とは関係のない私的な見方だが、中西作品は様々な連想を発生させる。先入観念を捨て、真正面から作品に向き合って、その画力を浴びることをおすすめしたい。
馬場駿吉(名古屋ボストン美術館館長)