柏原由佳は、油絵の具を日本画のように薄く溶き、何層にも重ねることで独特な深い色彩を作り出します。彼女の作品世界では、現実の景色と内なる想像の空間がゆるやかに編み込まれて存在します。その背景には、日本を離れ渡独して制作を続ける彼女の、内と外の「距離」への興味があります。ドイツと日本の物理的な距離、それぞれの文化間での精神的な距離、また日本人としての自分と、ドイツにいる自分との距離。それは彼女が作品で繰り返し取り上げる洞窟、穴、山、湖といったモチーフを、内省的な思索をシンボリックにあらわすものへと昇華し、大地にひそむ根源的な自然のエネルギーをも喚起させるのです。本展タイトルにある「空目」とは、本来「そこに存在していないものを見たと認識してしまう事」「実際には見ているものを見ていないふりをする事」という意味であり、「空目つむぎ」とは、時空間や日常の出来事、記憶を超えた捉えようのない景色を絵画作品としてつむいでゆく、柏原の制作に対する独自の視点を象徴的に表す造語となっています。
小山登美夫ギャラリーでは 4度目の個展となる本展。透明性と独特な濃密さが共存した、生命力溢れる柏原由佳の作品世界を是非ご高覧下さい。