江戸時代、歌舞伎は老若男女にとって最大の娯楽でした。
役者たちや芝居の様子を描いた浮世絵は、歌舞伎芝居の余韻を楽しみ、贔屓の役者を身近において眺めるブロマイドであり、美人画にならぶ主要なジャンルとして初期から幕末まで描かれました。
なかでも寛政六年(一七九四)は、新進気鋭の絵師・歌川豊国(一七六九―一八二五)をはじめ、彗星のごとく現れた東洲斎写楽(生没年不詳)が活躍し、その時期、衰退気味であった役者絵の刊行量はこの二人に牽引されるように増加します。
この役者絵の転換期に現れた写楽と豊国ですが、写楽が短期間で姿を消したこととは対照的に、豊国は浮世絵界で最大の流派となる歌川派を拡大し、その後の浮世絵界をリードする存在となります。つづく文化文政期(一八〇四―一八二九)には、芝居ブームを背景にした数多くの役者絵と、芝居から派生した新しい感覚の美人画が生み出され歌川派の絵師たちが筆をふるいました。
本展では、写楽と豊国を軸にした寛政期の浮世絵を出発点として、幕末にいたる歌川派の役者絵と美人画の流れを展示いたします。江戸の人々を夢中にさせた人気役者や力自慢の力士たち、寛政三美人と謳われた評判娘といった人気者を通して、江戸の賑わいをお楽しみください。